STORY
うつむいて
「死の尊厳を」
と、君なら言うだろう。
いいかい、この荒廃した世界に残っているのは、汚染された一面の焼け野原。いまだ余燼がくすぶっている。気をつけて、うっかり足を踏み入れると、火傷する…… ほら、見えるだろう、地平線、どこまでも燃え尽きて、なにもかも焼けてしまった。残念なことに、この世界には、君とぼくしかいない。君だって、わかっているんだろう? 他には誰もいないって。そうさ、寂しい世界さ。だがこっちへ来てみなよ、奇妙なものがいくつか置いてある。これは、墓さ、かつて、この世界に、一瞬だけ存在した、君とぼく以外の住人の墓さ。そう、みんな死んでしまった。なんで死んでしまったものか、ぼくにはわからない。だがきっと君にはわかっているんだろう。この世界は、最初からこうだった。別に戦いがあったわけじゃない。戦火に焼かれたわけじゃない。ただただ、消えることのない残り火だけが、ちらちらと蛇の舌のように、揺れ続けている。それだけの世界さ。君は、墓に、そんなに興味があるの? そんなもの、もう、うっちゃっておくがいい。死んだ住人は、決してよみがえらない、決して。彼らの碑銘を読み上げるのも、もうやめるんだ。そんな悲しいことは…… この世界には、もう誰も訪れないだろう。君も、いい加減、独りぼっちだということに慣れるんだ。君とぼくとは、最初から、そして最後まで、ずっと独りぼっちさ。ほら、上、見たことある? 上、見えるかい? なにもないだろう? あそこには、かつて、星という名前の小さな光が輝いていたんだ。真っ暗ななかに、ぽつり、ぽつりとね。いまは、ただの暗闇さ。星は、みんな落ちてきたよ。ぼくは見たんだ、一粒ずつこぼれる涙みたいに、ひとつ、またひとつと、星が落ちてゆくのを。そして、最後には、なにもなくなってしまった。だから、もう、上なんて見るのはよそう。星は、もう現れない、探すのは、やめるんだ、新星の発見者にでも、なるつもりなの? 星に、君の名前を付けたいって? 君には名前なんかないじゃないか。それより、さ、この焼け野原をずっと渡っていくっていうのはどうだい? 君とぼくとでさ。ああ、確かに火傷するね。だがそれがなんだ? 君もぼくも、もうとっくにどこもかしこも焼け焦げて、炭化してしまっているじゃないか。炭でできた人形のようなものだ、いまさらなにを気にすることがある? 君もぼくも、もうこれ以上ないほどにぼろぼろさ。あとは崩れ落ちるのを待つだけだ。灰みたいにさ。燃え尽きた灰みたいに。焼け野原の向こうにね、星の落ちた場所があるんだ。君だって見てみたいだろう? そこはね、落ちた星の悲しみで、炎がすさまじく燃え上がってる。地面は、星が落ちてきたときの衝撃で、ぼろぼろに穴が開いてる。特別にひどく荒廃したところさ…… 君はまた、そんな墓なんかを気にしている。もういい加減にしようじゃないか。君が考えてることはわかってる。君も、彼らと一緒の墓に入りたいというんだろう。あまりに寂しいから。あまりにも寂しすぎるから。でもね、残念だけど、そこは君のために用意された場所じゃない。もちろんぼくのためでもない。ずっと昔に死んでしまった、古い古い住人たち、それだけが眠る場所さ。君とぼくとは、この世界とひとつだ。たとえこの世界が、どんなに耐え難いものだったとしてもね。でもね、そんなに悲しむことはないさ。君とぼくとはこの世界と一緒に眠るだろう。世界が眠るとき、焼け野原の炎は消え、悲しみの星の猛火さえ消えてなくなるだろう。そして、それは、そんなに遠い先のことじゃない、と思うんだ。だから、それまで、君とぼくとは、ここでこうして、対話を続けていようよ。死の尊厳について、さ。
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